イーロン・マスクの伝記本を読んだ(せいで(読書とは違う理由で)徹夜した)

今年出たイーロン・マスクの伝記本があるじゃん

スペースXとテスラのCEOをやりつつTwitterまで買ってしまったイーロン・マスクという人がいるじゃないですか。彼についての本は山ほど出版されているけど、決定版というか、1冊だけ読むならこれでしょ、という本がしばらく前に出ていたのはご存知の通り。

1冊だけと言いつつ2分冊だったわけですが、ウォルター・アイザクソンが書いて井口耕二さんが翻訳している。これはあの『スティーブ・ジョブズ』と同じ布陣です。 そして原稿の段階から翻訳を始めて日米同時発売というのも同様。日本での版元は違いますが。激しい翻訳権争奪戦があったに違いない。 2年間密着取材して、仕事仲間、友人知人、妻、元妻、家族等々様々な人にインタビューをして、南アフリカで生まれてから(というか生まれる前の祖父の代から)最近のTwitterの話とかまで書かれています。

徹夜で読みたくなるほど面白い

今年の9月に本年いちばんの話題書という感じで出版されてたので見かけた方や既に読んだという方も多いでしょう。もちろん私も積ん読してたんですが、ふと思い立って読み始めてしまったらこれが滅法面白い。眠れん。上巻一気に読んでしまい、このまま下巻まで突入してひさしぶりに徹夜するかっていう勢いだったのですがふと冷静になってその日は一回寝ました。

この人がPaypalマフィアであることは知っていたし、そのPaypalが彼のX.comと合併したものであることも知っていたんだけど*1、その前に地図サービスを兄弟で起業して揃ってマルチ・ミリオネアになっていたことなんかは知らなかった。

まあそれにしても凄い。暴力的な南アフリカ時代、父親との関係、結婚3回(相手は2人、非婚のパートナーも1人)、1つだけでも印象的なエピソードが次から次へと繰り出される。それをジェットコースターのようにめまぐるしく駆け巡っていくので、本の構成も章毎に主にそのとき経営している会社のタイトルが付いていて、何個出てきたかいちいちおぼえていられないほどめまぐるしく入れ換わってゆく。

関わる全ての会社でメンバーに「気が狂いそうな切迫感を持って仕事をしろ」と要求する。いつかテスラが社員に「週90時間働け」みたいなメールを送ってたみたいなことが話題になってたけど、テスラだけじゃなくて関わった全ての会社で同じようなことやってたんだね..。しかしまあ、こういう環境で働いてみるのも刺激的で面白いだろうなと一瞬思ってしまったりもします。

文春オンラインのサイトにはほぼ本の内容を紹介しているページあるので買うかどうか迷っている向きはそちらをチェックしてみると良いでしょう。

ていうか実際に徹夜してしまった

ただまあ、本はもちろん面白いんだけど、それとは違う理由で徹夜してしまった。下巻に出てくるんだけど、2021年頃に彼がハマってしまい1日に何時間もプレイしていたという『ポリトピア』というゲームが紹介されていたのです。対戦もできて兄弟や親族一同巻き込んでやっている。イーロンはこのゲームがめちゃくちゃ強かったらしく、一時期はこれで夫婦仲が険悪になっていたこともあるらしい。

The Battle of Polytopia

The Battle of Polytopia

  • Midjiwan AB
  • ゲーム
  • 無料

へー、どんなゲームなんだろう?ってなんの気なしに検索してみて、iPhone版がある(他にSwitch版やSteam版もある)ということがわかったので、ちょっとだけやってみようかなってiPhoneにダウンロードしてみたらそこから5時間帰って来れませんでした。ヤバい。物凄く中毒性が高い。 ターン制の戦略ゲームで、いくつかゲームモードがあるんだけど、1セッション30ターンで終わるのが基本。まあ有限だし1回だけだったらそんなに時間取らないだろうと思ったら、やり込む毎に1ターンあたりめちゃくちゃ長時間考えるようになっていって気がついたら何時間も経っています。 本は先週読み始めたんだけど、下巻の途中でこれをやり始めてしまい、本が止まってしまったので慌ててそのときはやめたのです。でもこないだの週末についうっかり起動したら気がついたら朝になってたね。帰ってきて夜寝る前に1回だけ、と思ったらDuolingoのstreakもすっ飛ばして昼頃までずっとやってました。 イーロンはこれで会議の予定をリスケしたこともあるらしい。2023年現在でもやっているのだろうか? これ仕事がある日に朝までやってて寝られなかったらシャレにならないので、いまは1日1プレイだけに制限してます。有料のtribeを1日1個ずつアンロックしてそれで最後までプレイしてみる、というのでいま3つめ。

対人対戦まだやったことないので、どなたかやっている方がいたら一度お手合わせさせてください。ということでイーロンのせいでひさしぶりに完徹したという話でした。これに書いて昇華させないといつまでも気になってしまう。

それにしても

やはり「気が狂いそうな切迫感を持って」なにかをやるっていうことろが気になって仕方ない。プログラミングでもコーヒーでも、もっと切迫した感じでやらないといけない気がする。私も20代の頃は会社のデスクの下の床で寝る、とかよくやってました。もう若くないので徹夜なんかできないと思うけど、残りの人生で「いまがいちばん若い」んだからやるならいましかない、というような気持ちを再度起こさせてくれるには十分な読書体験でした。まあ余計なものにハマってしまって困っているけど..。

*1:なんせPaypalを利用して決済システムを作るときのサンドボックス環境のURLは長いことdeveloper.x.comとかで、仕事で決済システムを利用したいときによく使っていたのだった

転職してソフトウェアエンジニアをやっている

ひさしぶりにblog記事書きます

本エントリはカケハシ Advent Calendar 2023 Part 2の 15日目の記事に入れてもらってます。カケハシ Advent Calendar Part 1 もあり、様々な職種の方が記事を書いているので、ぜひご覧ください。といってもそもそもこのblogでは初出であるカケハシってなんだ?という話からしなければなりません。このAdventが書くきっかけになったのですが、そのあたりの近況報告も兼ねて最近こんなことをやっているというアップデート記事です。

転職していました

実際に新しい所属になったのは今年の10月1日からで、もう2ヶ月半くらい経っているのですが、本当にあっという間でした。Twitterではいろいろ投稿していたので見ていた方はご存知かも知れません。現在は株式会社カケハシというところで、ソフトウェアエンジニアとして新しい事業ドメインを起ち上げるためのプロダクト開発をしています。ソフトウェアエンジニアとしてプロダクト開発をしているのです。2回言いました。

前職も毎日面白かったしやりがいもあって明確に転職意志があったわけではなかったのですが、いろいろとタイミングが重なった結果、気がついたらこうなっていました。

カケハシってどんな会社?

株式会社カケハシは「日本の医療体験を、しなやかに。」というミッションを掲げて様々なプロダクトを開発しているスタートアップ企業です。 www.kakehashi.life 前職がヘルスケアだったので、そちらに継続的に興味があって同じような分野を選んだのかとよく聞かれるのですが、これは偶然です。 たまたま他の要因で興味を持ったのがこういう業界だった、という感じ。どういった動機で決めたかというのをいまから書きますね。

ソフトウェアエンジニアになりたいんだ!

要するに、自分でコードを書くことをもっと追及したくなったのです。

8年前にコーヒー屋をはじめてからソフトウェアの業界には薄いお付き合いだけをしていました。そんな中で、いろいろあって一昨年の3月に6年ぶりにガチのネット系スタートアップ業界に戻ってきて、この業界のことにまだ興味が残っていて、もっともっと最前線の勉強も再びやっていきたいなという気持ちが盛り上がってきた。

喩えて言うと、自分の家の冷蔵庫の中身だけではお客さんを満足させられない感じというか、新しい材料を仕入れて調理法もまだやったことがないものを追及して、道具も揃えたりメンテナンスしたり、そういうことをしなければならなくなった感じがしました。

そして、自分自身でこのスタートアップ界隈やソフトウェア業界にもっとどっぷりつかろうと思ったら何をいちばん極めたいかというと、それは手を動かしてコードを書いてプロダクトを作るというところだな、というのも実感していました。

スーパープログラマではないけれど...

私自身は業界は長いけれど凄腕プログラマというわけではないのです。いわゆるBig Techな会社にサクっと入れるようなこともなく、なんか有名な作品があるというわけでもない。ただわりと昔からプログラミングはやってきている。さらに、プログラミングによって人の役に立つとか社会が変わるとかそういうことはしたい。

いま自分がやりたいのって、これまでそれなりにやってきたコードを書いてなにか作るということを、もっとレベルアップさせなければならない、自分が直接見知っているスーパープログラマ達に少しでも近づくために日々自分を鍛えたいな、そのためにもっと現場でコード書きたいな、ということなんだなと気がつきました。

自分でコードを書くということ

いま自分よりも20も30も若い人たちがソフトウェアエンジニアを目指して研鑽を積んでいます。前職でもそういう希望を持って転職してきた若者たちとたくさん対峙してきました。自分は経験的にも年齢的にもそんな人たちを導く立場というか、彼/彼女らの成果や成長に貢献して自分はもう一線を退いているべきなんじゃないかということは常に頭をよぎります。 が、それはもう少しだけ先送りさせてもらいたい、このあたりでもう一度自分自身でプロダクト開発の最前線で揉まれてみたい、できれば自分が「いちばんの下手くそ」でいられるチームで、毎日必死にコードを書くということをやってみたい。Chadが何年も前に言っていたことですが、長い時間を経て改めてこの" Be the Worst" こそがいま自分に必要なことだなと実感しました。

もう少し自分のためにプログラミングを追及してみてもいいんじゃないか。それに、50近いおっさんになっても良いコード書きたくてじたばたしてる姿っていうのも誠に僭越ながらいまの若い人たちにとっては面白い見本になるんじゃないかな。

コードを書く、とは言っても..

あともうひとつ、コードを書きたいなら競プロやればいいじゃんみたいなのも今回はちょっと違う。若い頃さんざんやりましたが。あくまでプロダクト開発がやりたい。特定の業界の、ムーブメントの先端にいることには独特の充実感があります。顧客とか市場とかが見えていないと、本当に本気になってものごとを良くしようと思うのは難しいです。 優秀なPdMとタッグを組んで、常に少しずつストレッチした目標で、アウトカムだけを考えて開発に邁進する、そんな状況であれば、いちばん下手くそなメンバーとしてチームにいてもモチベーションを保ち続けながら毎日夢中になって過していられそう。

やりたいことができるところ

ところが、やりたいことがわかったからといってすんなりそうできるとは限らないんだよね。いろいろな観点で難しい。そもそも転職するという選択肢はふつうにやってたら上がってこなかったかも知れない。

ありがたいことに、前職在職中から、なんならその前からも、いろいろなお誘いはいただいてました。ただ、年齢的にもキャリア的にもご提案いただけるポジションにはいろいろと別のロールが附属してくる。経験を活かしてメンバー教育やチーム作りをやっていただきたいとか、知名度から技術広報や採用への貢献を期待していますとか、果ては技術戦略全体をお任せしますとかまで。誤解のないように言っておくと、そういうことが嫌とかやりたくなかったというわけではないのです。それはそれでやりがいもあるし、メンバーの成長を見ることにも凄い充実感あります。むしろやってるときは夢中になってました。要するにそこはコンフォートゾーンだったのだ。だからそこから敢えて抜け出さないと変化できないなと思ってました。そうすると、様々にいただくお誘いの方向とはずれていってしまいます。

そして前述のように、ただコードを書くだけではだめなのです。プロダクト開発の最前線というか、お客さんがちゃんといて、あるいは潜在的にいることを見越していて、そのお客さんとの距離がアウトカムを常に意識できるくらいには近く、チームにはシニアが揃っていて、しかも自分が入れてもらえる(これが重要w)。

そんな都合のいい現場があるのか

詳細は端折りますがうまいことあったのがカケハシという会社でした。いろいろあって10月1日から正式にジョインしました。

以前から知り合いだった湯前さんが先にジョインしており、(こんなにはっきり言語化していたわけではないけれど)ぼんやりと上記なようなことを話していたら、まさにうってつけのチームがありますよといって紹介してもらいました。 社内でも他チームのエースだった人とか自分も毎日ヘビーに使ってた有名SaaSの開発してた人とかある程度シニアな人だけを集めたチームを作っていた。私もよく知っている他社のVPoEやってた人がEMとしてジョイン予定だとも聞いたり(同日入社だった)。

転職してみてどうだったか?

そんなわけでいまのチームに来ましたが、狙い通りというか、凄いメンバーに囲まれて必死に喰らいつきながら毎日楽しくやっています。今日は自分語りに終始しようと思っているのでこのチームの日々の働き方とかアウトプットとかについては別の機会に譲りますが*1、ひとつだけ書くと、常にチームでの成果を最重視していて、その成果というのも顧客アウトカムで測るということが徹底されていて、そんな嘘っぽい理想のチームみたいなの作れるのかと思ったが実際に作れている。

ちょうどこのAdventに合わせて今週チームメイトの開発メンバーがそれぞれ記事を書いてるので読んでいただくと少し雰囲気がわかるかも。これ以外にも同じチームのPdMたちとか他のチームの人とかもそれぞれいろいろ書いてます。それ以前にtwitterにかなりチームの空気が漏れ出しているという話もありますが*2

実際お前はなにをやっているのか

自分自身がなにをやっているのかというと、まずはいろいろな前提知識をインプットしながら、特に分野を絞らずフルスタックでそのとき必要な開発をする。といってもまだまだペアプロ・モブプロで助けてもらいながらですが、毎日コード書いてます。カケハシでは今後の開発言語は特別なことがない限りはTypeScriptで統一しようということになっており、毎日TypeScriptを書いている。別のチームのヘルプで少しPython書いたりとかはしてるけど、実はRubyは一行も書いていません。まあそういう観点では探してなかったのでね。ただこれまでのRubyコミュニティの繋がりみたいなのが全く無関係かというとそういうことはなく、たとえdhhがRailsのコードベースから排除したTypeScriptを書いているときであっても、Railsで開発してたバックグラウンドが効いているなあと思う機会はよくあります。 この話はまた機会を改めて詳しく書いてみたいと思う。

まとめ

6年間コーヒー屋をやっていてひさしぶりにソフトウェアの業界にガチで戻ってきましたが、ブランク分まで含めてもっとコードに向き合って研鑽を積みたくなったときに、ふとその願いを口にしてみたらもう40代が終わろうとしているおっさんでも新しい挑戦の機会を得られました。有り難い話です。いいチームなので、しばらく邁進してみたいと思います。

p.s.

コーヒー屋は(あんまりできていないけど)完全にやめたわけではないです。そちらもまた別の機会に...。

*1:チームメンバーのことを書くと1人あたりそれなりのボリュームになってしまう。Natural Born EMな人のこととか書きはじめると1ヶ月くらいかかりそうだったり、超優秀で情熱的なPdMがいることの素晴しさとか語り出すと「そもそもプロダクト開発とは」みたいな話がどーっと展開されたりする。

*2:受動喫煙のよう、とか言われている

お休みも終わるので今日の本を

休みが終わることを考えて

現在の私は日本のサラリーマンなので、年末年始は休みがある。もちろんお店のこととかいろいろあるので完全になにもしないというわけではないのだが、それでもいつものように月曜から金曜まで出社しているという状況とはいろいろと違うので、時間の使い方も変わってくる。そんなお休みも今日までということで読んでみた本を紹介しましょう。

これも去年買って積んでいた本だが、明日からまた日常に戻るけれど、というタイミングのいま読むべきかと思い手に取った。これは思ったより衝撃のある本だった。なんせ原題が『FOUR THOUSAND WEEKS』である。人生は4000週しかない。例えば自分が先月の後半からほぼ2週間程をほとんどなにも生産せずに過ごしたことなどを思い出してしまう。しかしながら、そんな現実を突き付けられつつも、本書ではまた人生が有限であることをどのように受け入れるかということについて落ち着いて語っている。いわゆる「タイム・マネジメント」の本ではない。でも読んだことでこれまで以上に時間を怖がらなくなれそうな感覚がある。

有限の時間、時間の欠乏というテーマだと去年一昨年に読んだ いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学が思い出される。これはこれで凄い本だったし、ずっとそんな人生を送ってきてしまったのだが、その人生もそろそろもう折り返し点に差し掛かって時間への向き合い方も変化していくのだおうということを予感するような、そんな読書体験でした。

時間の消費の極北について

もう1冊は同じかんき出版から昨年出ていたこちらを取り上げよう。

TikTokはちゃんと使っているわけではないが、YouTubeなどに転載されてくるものなどを通じて私の時間消費の一旦を担っていることは間違いない。あまり会社の沿革などを知らなかったのだが、本書ではめちゃくちゃテクニカル・カンパニーであるように描写されていて、率直に言って大変驚きました。ぽっと出のアイデア勝負などではなく、徹底的に技術を追及している創業者が行きついた先がいまの形態だったということらしい。まあ言われてみればそりゃそうだろうと思うのだが。

そういう意味では、年末にこんな記事が流れてきて興味深かった。 www.nullpt.rs これもわりと驚いたが、本書でこの会社の出自を知ってしまうと、なるほどそういうこともあるか、という感じになるね。

ちなみに本書は自分で買ったのではなく出版社の方からご恵贈いただいたものです。Disclaimerとして書いておきます。しかしオススメ。

新年2日目、今日の2冊はコーヒー関係です

1冊目、コーヒー研究の古い文献

まず最初は昨年中に発売されて一時期ずっと持ち歩いて少しずつ読み進めていたこちら。底本は1973年発売の『珈琲遍歴』で、後の日本のコーヒー史研究に多大な影響を与えた本です。著者の奥山儀八郎は版画家で、趣味の珈琲研究といった感じなんだけど類似の研究が他になく読んでみるとたしかになるほどこれは独特だ。著者が

私の珈琲史は江戸時代の文献から昭和初期まで、それ以後の珈琲には興味がない。

とはっきり書いていて、去年他にもたくさん出たであろう珈琲本とは全く違うテクスチャを持った本です。今日我々が当り前のように使っている「珈琲」という漢字の成り立ちを研究しているところだけでも読むと面白いと思う。日本最古のコーヒーハウスは『可否茶館』であり、こちらが可否という当て字を使っていることからも初期から珈琲と書かれていたわけではない。ただ私自身は自分の店でもなるべく「コーヒー」と表記していて、珈琲と書くときには独特の気恥ずかしさが伴っていたのだけれど本書の内容から少し認識を改めました。 底本に附録としてついていた文献リストは講談社のサイトでpdfが公開さています*1

解説を『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)』や『珈琲の世界史 (講談社現代新書)』で有名な旦部幸博さんが書いており、なるほど講談社学術文庫でいま復刊するというのはそういう意味合いなのかなと思ったり。ともかくコーヒーに親しむものとしては必携の1冊で、気軽に読めるようになったのは本当に良いことだと思います。

2冊目、現代のコーヒーの入門書

もう1冊はこちらです。

これは読んだ直後にtwitterでも話題にしたことがあった。 コーヒーに関する情報はいろいろなものが溢れていて、中でもどんなコーヒー(豆)が美味しいのかということについてはいい加減な内容のものが多いのだけれどこれは自分も含めて提供側の努力不足の面が否めないと考えてあまり発言できていないんですが、本書は「コーヒーの美味しさ」をライトに入門したい人にとってはとてもよくまとまった情報源として役に立ちます。なにせ半生をコーヒーに捧げてきた人なので信頼も置けますし、産地や農業試験場などとも近しい関係を保って生の声をたくさん拾っている。もちろん私は全面的に同意できるわけではなく、流派の違いというか相容れない面もあるにはあるのですが、全体的には読んでおいてもらえるととても話しやすくなるので、オススメしておきます。

晦日にこんなことを呟いたら反響がとても大きかったのもあり、今年は部分的にはちゃんとコーヒー屋に戻りたいという願いもこめて去年買った2冊を紹介してみました。

新企画始動するので2冊紹介します

あけましておめでとうございます。新しい年になったということで、放置していた*1このblogでもできれば毎日なにかコンテンツを書こうということで新企画を始動します。

なにをやるのか

今日からできれば毎日、1日2冊ずつ本を紹介していくということをしたいと思っています。 日々積ん読がたまっていくばかり、平均すると月に30冊以上は本を買っていることがわかったので、このままだと1日1冊消化しても積ん読のタワーは高くなるばかりです。なので少しでも減らす意志を示すために1日2冊、たとえ読み切らなくても紹介できるくらいのレベルまでは目を通そうと新年のresolution的に決意しました。まだね。 だいたい本屋さんに行ったろきに厳選に厳選を重ねて多くの書籍を泣く泣く見逃しながら選んでもそこそこの冊数、これだけあるとしばしばダブり買いが起こります。なぜダブるかというと読んでいないからで、読まないから買ったことも頭に残らず魅力的な本ほどまた出会ったときに買ってしまう。少しでも目を通して印象が残っていればダブり買いも防がれようというものです。 なのでここ何年かのうちに購入して本棚に入っていない積まれている本を中心にはしますが、時期もジャンルもバラバラなものをとにかく1日最低2冊は選んでここで掲載していくことによって備忘録にしようと思っています。あとできれば2冊はなるべく関連がありそうな感じで並べたいなと思っています。

早速今日の2冊

もともと私は出かけるときには鞄に本が何冊か入っていないと落ち着かない、という人種なのでその場にある本をさっとひっつかんで出てくるのですが、たまたま新年1日目に入っていたのはこの2冊でした。

どちらも別に最近買ったというわけではないのだけれど、たまたま入っていた2冊が2019年発売の中公新書でかつアメリカのことを扱っているという点で共通していましたね。

1冊目の渡辺靖さんはもとはと言えば梅田望夫さんが著書*2を紹介していたのがきっかけで読み始めた書き手の方で、大変面白かったのでそれ以来ずっと追いかけています。 我々のようなネット系スタートアップをやっている人間はリベラルな立場を取っているイメージが強いが、可能な限り政府は小さくあって欲しいという相反する政治指向を持っていることも多い。従来の単純な無政府主義とはそこが異っている、というようなことがルポとして書かれていて面白い。また、現代の政治についての議論は動画やPodcastなしでは考えられない状態になっているというのも門外の人間には大変興味深かった。

もう1冊は私の好きなジャンルである食べることの本の中でアメリカに関するものということで手に持ってきたもの。アメ食っていうとハンバーガーなどのファーストフードばかりが思い浮かぶ人も多いけれど、実は入植時に既に現地にあった南米起源の食べもの、例えば南部のソウルフードのひとつであるフライドチキンとか、がずっと重要な位置を占めていたりすることなどを指摘されてハッとする。また、画一化する食事へのカウンターとして主に西海岸のヒッピームーブメントなどと結びついてスローな方向への揺り戻しが起こるところなどは先に読んでいた政治の話なんかとリンクしてこれまた面白い。 速水健郎さんの『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)』なんかが思い出されて、こういうのが続けざまに本を読むことの効果としてとても面白いんだよね。

まとめ

とかいう形でつらつら書いていくので皆さんよかったら反応してくださるとうれしいです。 会社のメンバーには荻野がどんな本をふだん読んでいるのかこれで知らせるという役目も。いつまで続くかなー。

*1:なんと2022年に1本も記事を書かなかった..

*2:たしか『アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所』だったと記憶している

どういう技術者になって欲しいか (2)

この記事はiCARE Devチームのアドベントカレンダーの第2レーン15日目の記事です。14日目に引き続き荻野が担当します。昨日の記事で比較的この業界の経験が少ない人も仲間になってもらっているということを経緯を含めて書きましたが、ではそういう技術者としては発展途上の人たちに、将来どうなって欲しいかということを今日は書きます。

いろいろあるんですが以下の3つに絞りました。会社の若手に語りかける感じになってしまった。

論理的であること、批判的であること

プログラマは論理の機械であるコンピュータを操る仕事なので、その仕事に従事しているならば自動的に論理的な人間であろうと期待されてしまう節があります。しかしながら、様々な心理学的実験などから、人間は必ずしも常に論理的に思考しているわけではないことが明らかになっており、プログラマも人間である限りはその癖から完全には逃れられません。そういったことを意識して、つとめて論理的であって欲しいと思います。事実や仮説から出発して、論理を積み重ねて思考する癖を付けて欲しいと思います。
様々な実装上の選択肢があってそのうちのひとつを選ぶとき、なぜそれを選択したのかをきちんとロジカルに説明できないといけません。起きたことをリーダーに報告する際にも、確実なことと推測されることは区別して伝えて、どういう推測を積み上げてその結論に辿りついたかを説明できるようになって欲しいと思います。
また、論理的であることと同様に科学的に重要な態度として、健全な批判精神も必ず持っていて欲しいと思います。新しい機能をなにか実装する際に、似た既存の実装があったとしても無批判にそれを真似てはいけません。なぜその実装になっているのか、他に手段はなかったのか、考えた上で実装を選択できるようになることが理想です。自分が論理を重ねて正しいと確信したことと目の前の現状が異なっていたときは、遠慮せずにすぐにそのことを伝えて欲しいと思います。矛盾が見えているのにそれを報告しないというのは科学的な態度とは言えません。あなたの目の前にある事実としか思えないプロダクトも、たくさんの技術者の健全な考えによって出来上がってきたのです。なにか問題を発見したときにそれを黙殺したり報告しなかったりするということは、極端に言えばそれによってプロダクトの健全な発展を止めるということになります。黙っていてはダメです。

なにかの専門家であるということ

その前に。皆さんの入社前から作られているそれなりの規模のプロダクトに対して、健全な形で疑いを挟んで意見を述べるためには、自分の持っている技術に対してのそれなりの自信が必要です。RailsであれVue.jsであれ、自分がこの部分についてはきちんと理解しているという実感がないと、批判の目も持てないものです。

では、その自信はどのようにして身につけるのでしょうか。身も蓋もない言い方になってしまいますが、経験を積むしかないのです。とにかくたくさん、成功も失敗も含めて、時間を費して取り組むことが結局はいちばんの近道です。もちろん漫然と時間を過ごしていてもダメで、目標に向かって耐えざる努力が必要です。これを苦しいことと思うと続きません。苦しまずに、自然な努力を重ねることができる状態に持っていくことが必要です。それにはどうすべきでしょうか。

解決策のひとつは、得意な分野をつくるということです。好きなこと、得意なこと、これだけはまわりの人に負けないということ、そういったことは趣味と同じです。気がつくと膨大な時間をそれに費してしまっている。寝る間も惜しんで熱中できるなにかを作ってください。その分野は特に気負うことなく自然と勉強が進んでしまう、そういう状況に自分を置いてください。

専門分野はどう見つければいいのでしょうか。これも身も蓋もない話ですが、いろいろやってみるしかないと思います。仕事を通じてでも、自分で探してでも、ある程度のボリュームをきちんと全力でやってみることです。ちなみにこの話には罠があって、なにかを真剣にやり始めたときにしばらく経つと「この分野は自分がかなり出来るかも知れない」と思う瞬間が来ます。しかしそこで満足せずにもっと上を目指して自然な努力を続けていると、突然自分が無力に感じられるときがきます。それでも諦めずに続けていった、その先が本当に専門分野の入口に立てたときです。興味がある方は「ダニング=クルーガー効果」で検索してみてください。

話が逸れましたが、この専門分野を見つけるという過程を出来れば20代のうちに、と書こうとして30代でこの業界に入ったメンバーがいることも思い出したので、ともかくあと3〜5年くらいで、やり切っておくと良いでしょう。実は私自身が若いときにこれといった専門分野を持たず、得意なものを作ることに失敗した人間です。おかげでその後の時代にかなり苦労をしました。皆さんはいまから取り組んでください。

開かれた心を持っていること

上の2つは私が思う優れたプログラマの特徴の代表的なものですが、他にもいくつもそういった良い技術者としての特徴を挙げることができます。おそらくこれからたくさんのそういった特徴のことを見聞きすることっしょう。これは、と思うものはどんどん取り入れて行ってください。その際に大事なのは、技術者が共通で持っている文化を理解しているということです。

どんな態度の技術者が尊敬を集めているのか、凄い人はどんなインプットを日頃しているのか、AとBという選択肢があったときに出来る先輩は常にAを選んでいるとしたらそれはなぜか、日々の仕事の中でも、それ以外の場所でも、周辺にヒントは無数にあります。無数にあるヒントを全て自分の糧にしましょう。ただ真似をすればいいというわけではありません。その行動の奥に隠された動機や理由まで理解しながらその行動をなぞってみて、はじめて同じ効果が現れるのです。行動の表層だけではなく、中心から受け取るようにすること。これはその分野を構成する文化の理解に他なりません。

経験を積んだプログラマがなんとなく共通で持っている文化というものがあります。これを貪欲に自分に取り込んでください。そのために時には、自分がこうでなくてはならない、といった固定観念を捨て去ることが必要です。そして、別のなにかを受け入れるためには常に開かれた心でいなくてはなりません。

これは完全に余談ですが、私の友人のあるオーストラリア人のプログラマは、日本人のプログラミング文化を理解するために『ジョジョの奇妙な冒険』を全巻購入して読破し、それが日本で仕事をする上で間違いなく役に立ったそうです。開かれた心による文化理解の極端な一例だと思います。

まとめ

ここまで書いてきた3つの要素は、どれも特定のプログラム言語やフレームワークなどに依存するものではありません。具体的に明日のタスクが速く進むようになるとか、そういった効果があることでもありません。でも、だからこそどんな時代であってもそのときの流行や市場の状況に関係なく通用する、普遍的な能力や自信に繋がるのです。私は皆さんにただ目の前のタスクをこなすだけの技術者にはなって欲しくありません。皆さんがiCAREと関わったからには、次にどこに行っても恥ずかしくない普遍的な技術を備えていってもらいたいと思っています。

なんだか偉そうなことを書いてしまいましたが、最近入社してDevチームに入ってくれた方の指針になってくれることを願います。今週からは荻野塾(これも偉そうな名前ですが)も始めるので、こんな感じのことをいろいろと伝えて行けたらいいなと思います。一緒にがんばりましょう。

どういう技術者になって欲しいか (1)

この記事はiCARE Devチームのアドベントカレンダーの第2レーン14日目の記事です。4回目の登場、誰も担当がいない日付は私がやる流れで今日も書きます。

株式会社iCAREでは現在積極的に技術者採用を行っています。ただしここでいう採用とは、経験者の中途採用のみを指し、基本的にはある程度の実績を積まれた方を対象に応募を受け付けているという状態でした。しかしながら、ご存知の通り現在の技術者の採用マーケットは大変な売手市場であり、これは、と思う方がいてもいろいろと条件が弊社よりも魅力的に見える別の会社に行ってしまわれますし、そもそも一定以上の経験を積んだ技術者が市場にいないようにも思えます。

そんな中で、夏頃からしばらくの間、実務未経験またはそれに近い状態の年数の方であっても、ポテンシャルが高ければ採用しよう!という方向に一時的に梶を切りました。実は、うちのVPoEもたまに書いていますが、他業種からの転職組などで実務未経験の候補者などはこれまでもいらっしゃったのです。そういった方々、典型的にはプログラミング・スクールを出たばかり、というような方の中でも、これは!という光るなにかを持っていることはあります。たまたま1名そういう人が応募してきたことがきっかけで、対象を少し広げてみることにしたのです。

考えてみれば、経験年数少なめのプログラマさんたちに、もっと経験を積んでからまた応募してくださいね、といってリリースしてもこの状況でまた弊社を受けてくれるとも限りません。実務未経験エンジニアであっても、弊社で1年の経験を積めば1年後には実務経験1年のエンジニアになるのです。そして、その1年の経験は、やりようによっては他で積む1年の経験よりも濃いものにできるでしょうし、なにより弊社が求めるものにマッチしたものになることは当然期待できます。

夏頃に方針を決めてから数え切れないほどの候補者を選考しました。8月から概ね月に2人ずつ10人ほどのメンバーを採用しました。立場上、特に正社員については全員に私が会いますし、ほとんどの人は私が直接内定を通知しました。未経験ないしは2年以下くらいの、でも意欲が高く素質もありそうな人を厳選しています。彼・彼女らにこれからどういう経験をしてもらいたいか、どういったことを学んでもらいたいか、会社全体としてはまあ事業に貢献するとか業務知識を付けるとかいろいろあるわけですが、私個人としてはどんなことをみんなに望んでいるか、ということをこういう公開の場で書いてみようと思います。

とまあここまでの前置きがけっこう長くなっちゃったので本編は明日書こうかな..。このnoteはadventカレンダーの1枠ですが、15日目もまだ決まっていないので私が続けて書いた方が良さそうである。